NEWSお知らせ
2023.10.4
高剛性・高減衰性を実現する
鋳鉄×ミネラルキャスティング ハイブリッド技術を発表半導体製造装置の高速化・高精度化を狙い、パナソニック コネクト株式会社と共創
東京大学とハイブリッド化をはじめとした振動シミュレーション技術確立に向けた共同研究を実施中
ヒノデホールディングス株式会社(本社:福岡市博多区、代表取締役社長:浦上紀之、以下当社)は、半導体製造装置、工作機械など各種産業用機械の高速化・高精度化に寄与する、高剛性・高減衰性を実現した新しいソリューション技術を開発し、本日ヒノデグローバルイノベーションセンター(佐賀県みやき町)にて発表を行いました。
半導体製造装置や工作機械をいま以上に高速化・高精度化させるには、機械の動作時に発生する振動の抑制が鍵となります。振動を抑制するためには、機械本体の剛性は維持しつつ減衰性を高める必要がありますが、その実現には、材料面や構造面といった源流から見直さなければなりません。
しかし、一般的に使われている鋳鉄や鋼材、また、欧州メーカーのハイエンド機に使われるミネラルキャスティング材料では、剛性と減衰性はトレードオフの関係にあり、構造設計だけで解決するには限界がありました。
このような背景のもと、このたび、剛性に優れる鋳鉄と減衰性に優れるミネラルキャスティングの「ハイブリッド技術」、および普通鋳鉄(FC250)と比較し、約2.5倍※1の減衰性を持つ「高減衰鋳鉄」の2種類の技術・材料を開発しました。
半導体製造装置や工作機械をはじめ、CTやMRIなどの医療機器、精密測定機器、さらには近い将来に実用化が期待されるロボット加工機において、各部位に求められる要求性能に応じ、鋳鉄、ミネラルキャスティング、新技術であるハイブリッド技術、高減衰鋳鉄を最適に使い分けることで、更なる高速化・高精度化の実現に寄与するものです。
高速化・高精度化ニーズの背景
<半導体製造装置>
デジタル社会の進展やモビリティの電動化などに伴い、半導体需要は2030年には2022年比で約2倍に拡大すると言われています。市場拡大や半導体の微細化に対応するために、供給側では、製造装置の高速化、高精度化が模索されています。
<工作機械>
航空宇宙部品や医療機器部品、光学金型、電子機器でも、微細加工による高精度化が求められています。その実現のため、制御技術や作業環境保全(振動や温度・湿度管理)に加え、加工時に発生する振動を抑制する機械自体の制振性向上に取り組まれています。
高速化・高精度化に向けた技術課題
現行レベル以上の高速化・高精度化を実現するには、振動をどう解決するかが鍵となりますが、現在の振動対策の主なアプローチは、ソフトウェア制御が中心となっています。
機械本体は、JIS規格などの既存材料を用いて、基本的な構造は従来機をベースとしたものであり、その機械本体が持つ変形や振動のし易さ、し難さといった特性を前提としたうえで、機械に発生する振動をモニタリングしながら、必要な精度を得られるよう、加工やヘッドなどの動作スピードをコントロールすることで、最大の精度と速度を実現させようとされています。
しかしながら、更なる高速化や高精度化を実現するには、ソフトウェア制御だけでは限界があるため、機械自体の振動抑制が求められるようになりました。
ヒノデが取り組んだ背景
機械装置の振動抑制を高めるためには、機械本体の材料や構造を見直し、高剛性を保ちつつ高減衰性を実現させる必要があります。当社は、剛性に優れた鋳鉄と減衰性に優れたポリマーコンクリート(ミネラルキャスティングはポリマーコンクリートの一種)の2つの技術に長年携わってきた経験から、材料開発面、構造最適化面でのこれまでのノウハウを用いて、二律背反するこの技術課題を解決できるのではと考え、開発に着手しました。
<材料開発面でのヒノデのノウハウ>
産業機械の設計においては、一般的にJISなどの既存材料の中からベターなものを選択していますが、それが製品性能向上の制約になっているケースもあります。当社はこれまで、既存の規格に制約されることなく、必要に応じて、構造体に必要な性能をもった新しい材料を開発してきました。当社では、材料物性と金属組織の関係性をシミュレーションと試作評価によりナノメゾレべルで解明し、新しい合金開発に取り組んでいます。また、鋳物やミネラルキャスティングの特性(メリット/デメリット)を踏まえた、最適な使い分けやハイブリッド化などお客様に最適な材料を提案することができます。
<構造最適化面でのヒノデのノウハウ>
当社は、これまで製品メーカーとして、また、鋳物メーカーとしての製造制約などを組み込んだ設計/解析技術やノウハウを蓄積しています。近年では多くの各種産業機械メーカーと協働し、お客様の鋳物構造体の形状最適化(高剛性、軽量化、耐久性向上など)に取り組んできており、この解析ノウハウを振動にまで拡張することで、お客様に高速化・高精度化の側面で最適な形状を提案することができると考えました。
新開発「高減衰鋳鉄」の特長
・鋳鉄は、母相である鉄合金に第2相としての黒鉛が分散しており、母合金と黒鉛界面で塑性流動が生じやすく、これが減衰性を高めると考えられています。減衰メカニズムをナノメゾレベルの金属組織で捉え、母相と第2相とのバランスを調整した結果、従来の普通鋳鉄(FC250)対比で約2.5倍の減衰性を有する高減衰鋳鉄の開発に成功しました。
新開発「ハイブリッド技術」の特長
・ミネラルキャスティングとは、樹脂と骨材を固めたポリマーコンクリートの一種で、高振動減衰性、低熱伝導率、電機絶縁性といった優れた特長があります。特に、減衰性の側面では普通鋳鉄(FC250)の約10倍※1の減衰性があります。その特性を活かし、工作機械、半導体製造装置、計測機器など、高精度、高速化が求められる各種機械のベッドやコラムなどの構造体に適しています。
・一方で、ヤング率が小さい材料(変形しやすい材料)のため、形状設計や高剛性材料との組み合わせなどでその補完をしていく必要がありますが、重量や形状、サイズなどの制約から適用に限界もあります(小型機・中型機のコラムや可動部位など)。
・ミネラルキャスティングの高減衰性という優れた特性を活かしつつ適用箇所を広げるために開発したのが、剛性に優れる鋳鉄に、適切な形状・量のミネラルキャスティングを充填する新しいハイブリッド技術です。鋳鉄の材質や形状、ミネラルキャスティングの配置などの組み合わせを変えることで、様々な要求性能に応えることが可能です。
高減衰鋳鉄とミネラルキャスティングの諸物性
ヤング率 [動弾性係数] GPa |
熱膨張係数 ppm/K |
比重 g/cm3 |
対数減衰率※1 | |
---|---|---|---|---|
高減衰鋳鉄 | 64 | 3.5 | 7.5 | 2.5 |
ミネラルキャスティング | 38 | 12.2 | 2.4 | 10 |
普通鋳鉄(FC250) | 113 | 12.0 | 7.2 | 1 |
※1:FC250を1とした場合/当社実施試験結果の比較
<ハイブリッド技術適用のシミュレーション例>
鋳鉄とミネラルキャスティングのハイブリッド技術の効果について、以下にシミュレーションの一例を示します。左側が一般的な工作機械の例で、紫色で示しているコラム部分は鋳鉄の構造体です。青色のヘッド部分は50~70㎏で、これが左右に高速に移動、停止を繰り返します。
このヘッド部分が、高速移動後、停止する際に、慣性を受けて振動が発生します。その振動の幅が一定以下に収まらないと次の移動は開始できません。したがって、振動が収束する時間をいかに短縮できるかが機械の高速化、すなわち生産性に大きく影響を与えます。
右側の例のように、コラム部分を鋳鉄とミネラルキャスティング(緑色部)のハイブリッド材料に置き換えた場合、ヘッド部分が停止した際に発生する振動をミネラルキャスティングの特性によりスピーディに減衰させられます。その結果、コラム部分に求められる剛性はそのままに、制止時間が約60%短縮され、装置の生産性向上に大きく寄与できることが確認できました。
このハイブリッド技術は、単に隙間にミネラルキャスティングを充填するというものではなく、紫で示す鋳鉄製コラムの変形のしにくさは従来構造を維持させながら、振動抑制に適した充填の位置、形状、量を明らかにする技術で、また、充填に対してミネラルキャスティングと鋳鉄との界面品質を安定化させる生産技術を統合した技術です。
[本件に関するお問い合わせ]
ヒノデホールディングス株式会社
産業機械ビジネスユニット 田中・日高
TEL:03-5549-1586
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